Prologue


私の名前は。十六歳、O型。どこにでもいそうな普通の女子高生だ。取り分け物凄い美人でも、素晴らしいプロポーションを持っている訳でもない。チャームポイントは、少し目が大きい事くらい。ボリュームアップのマスカラをつければ、きっと化ける事が出来ると思っている。でもそれだけの事。
魔法が使える訳でも、モンスターがいる訳でもない普通の世界で、ごく普通の日常を送っていたのだ。

…そう、送って「いた」のだけれど。

バシャアァンッ

突然響いた鈍い水音と、叩き付けられる様な痛み。

──息が出来ない。

脳がそう認識した瞬間、息苦しさが私を襲った。
状況も何も解らないまま声を出そうと開いた口に、空気ではなく大量の水が入り込む。
目を開けて見れば、遥か遠く上に光の筋がゆらゆらと揺れていて。
私はその光とは逆の、暗い闇に落ちているようだった。
光の方へ向かおうと足掻けば足掻くほど、冷たい水は私を飲み込もうと纏わり付いてくる。

──苦しい。誰か、助けて!

酸素を求め必死にもがき、伸ばした腕を、誰かが掴んだ様な気がした。
強い力によって引っ張られ、私は光の方へ浮上していく。

「──ゲホ…ッ…!、ゲホッゲホッ、うぇ、え…っ!」

勢い良く水面に引っ張り出され、視界が一気に明るくなる。
えずきながら必死に息を吸う。その顔にも水が──波が当たり、なかなか呼吸がままならない。揺らめく不安定さが怖くて、目を瞑って自分を支えている人の体にぎゅっとしがみ付いた。
そうしている内に、波に揺られていた体に重力が返ってきたのを感じた。懐かしい重力の感覚に安堵し、そこでようやく落ち着いた私は、助けてくれた人物を見ようとするも、目が霞んでうまく見えない。

──誰だろう?

強く抱かれる体。
眩しい程の空。
逆光。

…」

──どうして私の名を?

不思議に思う私の体を、その人物が抱き締めた。
疲れ果てていた私は、ただされるがままで。

「お前を待っていた…もう、どこにもやらない」

──待っていた?意味が解らない。

意識を保つだけで精一杯だった私は、温かな視線を向けられていた事に気付かなかった。

ただ、切なそうな声をしていると言う事だけは──解かった。

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