亡く季節
クロノポリスの裏手、機械的な其処とは正反対に、手の加えられてない美しい浜辺がある。
そこは私のお気に入りの場所であり、フェイトと出会った場所で、たまに訪れてはこうして一人休んでいる。
かれこれ一時間以上経っているから、そろそろ探しに来る頃かしら?
後ろから気配を感じ、予想は確信に変わった。
「…何をしている?」
靴を脱ぎ捨て、海に足を突っ込んでいる私を見付けたフェイトが不可解な顔をした。
「何って、遊んでるの」
振り返りながらそう言えば、予想通り仏頂面な彼の姿。
「…私がどれだけ探したと思う?」
「あら、人を置いて作業に没頭したのはどこの誰かしら」
自分からほったらかしにしたのクセに、離れるとすぐ機嫌が悪くなるものだから困る。
「フン…」
痛い所を付かれたと思ったのか、フェイトはバツが悪そうにそっぽを向いてしまった。
…そんな姿を可愛いと思ってしまうのは頭が沸いているからだろうか。
仕方ないなあ、と海から上がる。
「作業は終わったの?」
「いや、まだだ」
靴を拾って彼の前まで歩けば、すかさずその腕に閉じ込められた。
「お前がいないと集中出来ん…」
とんだ依存だ。
「しっかりしてよ、神様なんでしょ」
「うるさい。…傍にいろ」
「はいはい」
「…
」
「…ん?」
穏やかに微笑んで「愛してる」と言って、甘く口付けられる――
くすぐったいと思いながらも、私もそれを受け入れて小さく笑う。
そんな、
幸せな夢を見た。
夏の日の事だった。
夢から覚めた私は夢の中と同じあの浜辺にいた。
何も変わらない。
振り返れば彼がいるんじゃないかと。
お馴染みの仏頂面で私を探しに来るんじゃないかと。
そんな錯覚すら起こしそうになる程。
「…フェイト…」
そのまま目覚めなければ良かったのに。
甘い夢と一緒に、私も殺してくれれば良かったのに。
「…探しに、来てよ」
彼の声は聞こえない。
あの夏の日に死ねたら
(私は一人、あなたのいない季節を生きる)