亡く季節


「久しぶり、カーシュ」

あの時と変わらない笑顔で彼女は笑った。


++++++



「…なあ小僧、行かないのか?」

ようやく星の塔へ行ける準備が整ったと言うのに、セルジュは難しい顔をしたままで動こうとしない。
その理由は――なんとなく予想はついた。

「… を連れて行きたいんだ」
「セルジュ、それは…」
「解ってる。でも、龍神…時を喰らう者と一番決着を付けたいのは彼女だと思うんだ」
「…アイツがそれを許す筈はないと思うぜ」
「解ってる。それでも…彼女を傷付けてしまったせめてもの償いに……」


セルジュに言われたからではない。
に会いたくて、気が付けばまた神の庭に足を運んでいた。

「元気だった?ちょっと痩せたかしら」

まるで何事もなかったかのように話す
逆にそれが恐ろしくて、それを振り払うように頭を振って彼女に向き合った。


「…ん?」
「一緒に来てくれないか」

途端、の顔から表情が消えた。

「…少し前、セルジュにも同じ事言われたわ」
「小僧に?」
「でも、断った。一緒に行くなんて無理よ」

そうして、また寂しげな笑みを浮かべた。

「ごめんね、皆には迷惑…かけちゃって」

瞬間、頭がカッと熱くなった。

「どうして!」

「運命を倒して…ヒトは先へ進むのね…」

「どうして何も言わないんだ!」

「…さよなら」

大切な人を殺され、嘆き悲しんでも…彼女は俺達に何も言わなかった。
いっそ、恨み言の一つでも言ってくれたらどれほど良かったか――

「裏切ったのは私だもの」
「……」
「ごめんなさい…もう、私に構わないで…」

言葉が出なかった。
拒絶の背中を向ける彼女に、二度と話し掛ける事が出来なかった。

神の庭を背後に振り返る。
彼女はまた、一人、泣いているのだろうか。

「……」

夏が終わる。
もうすぐこの物語も終焉を迎えるだろう。

ひとりきりの
が鳴く


(届かない懺悔)
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