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月日が経つのは早いもので、 がキッドと出会って一年が経った。
やはり此処は の知らない世界で、状況がわからず混乱していた に、キッドは色々な事を教えてくれた。モンスター・亜人・妖精の存在…武器やエレメントの使い方…。
キッドはラジカルドリーマーズと言う盗賊で、ある宝を探しながら旅をしている。
ただ、宝はあくまで付属品。本当に探しているものは──

「ヤツの…ヤマネコの居場所が解った」

ヤマネコと言う名の亜人。
キッドが子供だった頃、育ての親だった人を手に掛け、キッドの居場所を奪った男。
キッドは育ての親──ルッカさんの仇を取る為に旅をして来たという。

「しかも」

突如もたらされた情報に は息を飲んだ。そしてキッドは更に続ける。

「あの凍てついた炎も絡んでるって話だ」

凍てついた炎。所有者の願いを何でも叶えてくれると言われている。宝石とも、生き物とも言われているが、詳しい事は解らない。何故なら誰もその存在を見た事がないから。
ただ、この不確かな情報こそ、 が元の世界に戻れるかも知れない唯一の方法なのだ。

キッドの目的と の目的が一度に見つかった事で、喜びは倍増する。

「本当に…?」
「ああ、ヤツは南…エルニドにいる。炎もそこだ」

グッと手を握り締めるキッドに、ユナは弾けたように顔を上げその背を押した。

「行こうキッド!」
「わ!ちょ、押すな !」

その時はまだ「帰れるかも知れない」その思いだけが、 を動かしていた。

++++++++++

「平和な所ねえ」

エルニドに着いた第一声はこれだった。
青い空に白い雲、美しい海。
リゾート地にありそうな風景に、 は感嘆の溜息を吐いた。

「…で、ヤマネコの居場所は?」
「ああ、本島にある蛇骨館って所にいるらしい」
「蛇骨…変な名前」

正直な感想を漏らせば、キッドから「突っ込むところか?」と呆れた声が返って来た。
それを「まあまあ」と諫め、気合いを入れるように肩をぐるりと回す。

「じゃあ、ひとまず情報収集と行きますか」

はキッドみたいに身が軽くない。戦い方は一通り教えて貰ったけれど、「傷付ける」行為に慣れる事が出来ない(襲ってくるモンスターは別だが)
そんな が選んだのは「言葉」だ。
何処の世界でも珍しい話は人の興味をそそるらしく、 は元の世界の事を人々に聞かせてきた。
子供の好きそうなお伽話から、文明の発達した世界…ここの人たちからすれば未知の世界。
そんな珍しい話をしていると段々噂は広がり、 の話を聞きたいと暇な富豪やら貴族やらがユナを招いたりするのだ。
その対価にお金と情報が入ってきて、キッドの手助けにもなるわリスクは掛からないわで、 的にはとても美味しい商売である。
慣れるまでは緊張したりしたが、背に腹は変えられない。生活が掛かっているので、徐々に慣れていったのだった。

「頼んだぜ 。オレは外の方から探ってみる」
「オッケー。あとでね」

キッドが軽く手を振って歩き出すのを、ユナはその背が見えなくなるまで見送った。

「…さて行きますか」

そう呟くと、キッドと反対方向に歩き出した。
何気なく上を見上げれば、驚くほど澄んだ青が眼前に広がる。

──海も空も、本当に綺麗な場所。こんなの、日本じゃ滅多にお目に懸かれないんじゃないかな。

「せいぜい沖縄とか…」

ふと、元の世界の事を思い出した。
の住んでいた所は、都市化も進んで美しい自然なんか殆ど見る事もなかったけど。

「やっぱり、帰りたいな…」

優しい両親や、大切な友人にも恵まれ、何一つ不自由なく暮らして来た。それなのに、どうしてこの世界に来てしまったのか。
は「よし」と両手を握り、決意新たに右手を上げた。

「ぜーーーったい!帰ってやるー!!」

そして鼻息荒いままずんずん進んで行った。
運良くモンスターにも会う事なく歩いていると、やがてテルミナという港町が見えてきた。ここはエルニドの統治者であるアカシア騎士団のお膝元であり、滞在するにはうってつけの場所…とキッドが言っていた。
は宿を取るとすぐ、目的の情報を求め町中を回り始めた。

「んー…まずは蛇骨館の情報かなあ…。とは言っても、腹が減っては戦は出来ぬ、ってね」

長旅で空腹を訴えるお腹をさすりながら、上機嫌でレストランの扉を開いたその瞬間。

──ドンッ

「きゃっ!」

中から人が出て来て正面からぶつかり、 は見事な尻もちをついてしまった。

「いたた…」
「す、すまない」

バランスを崩し倒れた所に手が差し出される。
その手の主を見上げ、 は相手に気付かれないよう、少しだけ唇の両端を釣り上げた…。
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