11
「
…」
誰かが私の名前を呼ぶ。
「…」
甘く、どこか切なさを含めたその声は、まるで母親を呼ぶ子供の様な響きを持っていて。
「(…貴方は、誰なの)」
ひどく懐かしく、何故か泣きそうになった。
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「おーい、起きたか?」
「………キッド?」
ぼんやりした頭のまま目を開けると、キッドの顔が目の前にあった。
「ここは…?」
ベッドに寝かされていたらしい。起き上がって周りを見渡せば、見知らぬ調度品や室内が広がっていた。
はて、どこだろうと首を傾げたらキッドがすぐ答えてくれた。
「ここはガルドーブだ。それより大丈夫か?お前、かなり火傷してたんだぜ」
「火傷?」
両手を見れば、ぐるぐるに巻かれた包帯が目に入った。あの時の出来事がフラッシュバックする。
――お前だけは行かせぬぞ
「…」
「…どうした?痛むのか?」
急に黙ったが心配になったのか、キッドが眉を寄せる。
「…ううん…大丈夫」
「あんま無理すんなよ」
「私よりキッド、貴方の方こそ大丈夫なの?」
ナイフで抉られた傷がどうも気になる。
「へへ、オレはあれ位じゃやられねえよ」
「そう?」
「外へ出ようぜ」と誘われたので、キッドの後について部屋を出る。
「綺麗…」
ガルドーブは海に囲まれた島だった。
心地よい潮風が髪を揺らし、広渡る青い海が心を癒す。
「蛇骨館の情報、助かったぜ」
暫く海を眺めていると、キッドから声が掛かった。
「…うん」
「まあ…何だ、凍てついた炎はなかったけどよ、まだ終わった訳じゃない」
「そうだね」
「あいつらきっと炎の手掛かりを掴んでる…今度こそ突き止めてみせようぜ」
――それはまた彼等と出会う確率が高い事を示唆していた。
が、それを言わず炎の事だけを話すキッドに、彼女なりに気をつかってくれたのだと、不器用な言葉遣いには小さく笑った。
「…もちろんよ」
退く訳つもりは到底なかった。
「(私の目的は…凍てついた炎)」
騎士団の事を考えると胸が痛むが。
「大丈夫、迷ったりしないから」
「…そっか。なら良いんだ」
ニカッと、いつもの笑顔を浮かべたキッドと笑い合った時だった。
「おーいキッド、腕の調子はどうだ?」
赤茶色の、個性的な髪…いわゆるモヒカン頭の少年が家の中から出てきたのである。
「よ、コルチャ」
コルチャと言うらしい少年はを見ると人の良い笑みを浮かべた。
「お、あんた目が覚めたのか」
「は、はい…あの、貴方は?」
「コルチャは蛇骨館から落ちたオレ達を運んでくれたんだ」
あ、とは慌てて頭を下げた。
「そうだったの。私は。どうも有り難う」
「気にすんな。これも仕事の内さ」
コルチャは「ハハハ」と爽やかに笑った。
「もう一組はまだ目が覚めないみたいだな」
「もう一組?」
誰の事だろうとが首を傾げれば。
「セルジュ達の事だ。オレと一緒にいた」
「ああ…」
そう言えば彼等も落ちたのだった。
ヤマネコの事で頭がいっぱいで忘れていたが、彼とは一度話をしてみたい。
早く目が覚めるよう心の中で願いながら、ガルドーブの景色を眺めた。
――セルジュが目を覚ましたのはそれから三十分ほど経った時だった。
目を擦りながら家から出てきたセルジュにキッドが声を掛ける。
「よ、セルジュ」
「…キッド?」
起きたてで頭が働いていないのか、ぼんやりした表情にキッドが溜め息を吐く。
「お前なあ…あの程度の高さで意識失うなよ」
「あの程度って…けっこう高かったと思うんだけど」
セルジュの意見にも同意して頷いた。
少なくとも「あの程度」で済ませられる高さではなかったし、普通の人なら意識を飛ばしてしまうだろう。
ふと、セルジュと目が合った。
「あ、初めまして。セルジュ…よね?私は。キッドと旅しているの、よろしく」
「初めまして。君の事は少しだけキッドから聞いてるよ。宝物庫の事教えて貰っていたのに、キッドが盗もうとしちゃって大変だったよ」
は吹き出した。
「あはは。キッドの性格からして、お宝前にして盗まない訳にはいかないよねえ」
キッドがバツが悪そうに口を尖らせた。
「ちえ、ばらすなよセルジュ」
だがそんな会話をしていられたのは一瞬で。
「(…あれ?)」
キッドの顔色が段々悪くなってきたのに気付き眉を寄せる。
キッド本人は気付いてないのか、いつもと同じ様子で。
「お宝前にして退いたんじゃ、ラジカルドリーマーズの名折れ……」
セルジュに向かって胸を張ってみせた瞬間――
「あ…れ…」
ガクンと膝を付き、急に力を失った様に倒れたのであった。
「ちょ、キッド?!」
慌てて駆け寄ったは、キッドの体を抱き起こし顔を覗き込んだ。
「ひどい顔色…やっぱ調子悪かったんじゃない…」
「おい、どうした?!」
コルチャがやって来てキッドに駆け寄る。その額に手を乗せると、焦った様に叫んだ。
「すげえ熱だ!」
「どうしよう…ここにお医者さんはいるの?」
「ああ、入り口近くに診療所がある。急いで運ぼう」
そうは言っても、にはキッド一人運べる力など到底ない。
はセルジュを見上げた。
「セルジュ!手伝って!」
「あ…うん!」
セルジュは頷くとすぐにキッドの体を抱き上げ、キッドは診療所に担ぎ込まれたのであった。