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「いやああああああ!!!」

は叫んでいた。
『丸くて開けた場所』で呼んだロザリーのために。

「虫ぃいいいいいい!!!」

そう、ロザリーは先ほど頭上を飛んでいった巨大な羽虫の事だったのだ。

落ち着いて!」

セルジュの言葉にも首を振り、彼の背に隠れる。

「むっ、無理!あれはトラウマになる大きさでしょ!!」

大きな体、突き出た触覚、激しく動く足…。グロすぎるのである。

「ギッ、ギィイ!」
「ひぃいい」

しかし避ければ避けるほどロザリーはの方に近づいて来て。

「ギィイイイッ!」
「いやー!もうやだー!!」
下がって!」

セルジュがを下がらせようとするも、完全にパニックに陥ったは、がむしゃらにエレメントを発動させ。

「来ないで!!!」

爆発させた。
轟く轟音に、セルジュとレナは呆然とその光景を見つめる。

「す、すごい…」

爆発によりロザリーは炭と化し、辺りも焼け焦げていた。

って、すごい魔力があるのね」

レナが感心したように言った。

「…虫、消えた?」

セルジュの後ろから恐る恐る顔を出したを見てレナは笑った。

「大丈夫よ、もういないわ」
「本当?良かった…」

はホっと息を吐くと、セルジュに向かって「ありがとう」と頭を下げた。

「庇ってくれて」
「ううん、が無事なら良いんだ」

笑顔でサラリと言われた言葉にの頬がほんのり染まる。

「(セルジュって優しいなあ)」
「オホン!」

咳払いにそちらに目を向けると、気まずそうな表情のレナが腰に手をついて一言。

「じゃあ下がりましょうか?ここはもう行き止まりみたいだし…」
「そうね。あ、ちょっと待って、杖が…」

先ほどの出来事で杖を放り投げてしまったらしい。
真ん中に転がっている杖を取ろうと足を踏み出した時。

ミシミシッ。

嫌な音がした。

「…」
「…」
「…ねえ二人とも」
「何?
「落ちるよね」
「落ちるね」
「落ちるわね」

バリバリバリッ!!!!

「どうしてこうなるのー!!!」

道が焦げていて気づかなかったが、どうやら先ほどの衝撃でヒビが入り、杖を取りにいった瞬間穴が空いてしまったようだ。

「これ、どこに落ち――きゃっ!」

強い衝撃を覚悟していたが、落ちた先には柔らかい衝撃。
何かに一度落ち、そこから体制を直して沼の底に足を着けた。

「っっ…な、なんとか無事のようね…」

落ちた先の物を確認しようと振り返ったら。

「また…もう、何よこれ…」

巨大なタコのような不気味な生物の姿に、はうんざりした。
達が落ちて来た衝撃で気を失っているらしいが、その姿は非常に不気味である。

「このモンスターのお陰で、私たち怪我をしなかったのね」

レナが冷静に言うが、は気が気でない。

「ねえ、早く出ようよ」
「そうね…いつ目を覚ますか解らないものね。セルジュ、早く…」

と、セルジュが何か見ている事に気付いた。

「二人とも、これ…」
「え、嘘」
「何何?」

二人が何かを覗き込むので、も同じくその何かを覗き込むと。

「これって…妖精?」

小さな妖精が、カゴの中に閉じ込められていたのだった。
何故こんな所に妖精が捕らえられているのか?

「……」

妖精は檻の中で俯いたまま動かない。

「とにかくここから出さないと…」

セルジュが檻に手を伸ばした時、妖精がほんの少しだけ顔を上げた。

「…駄目だよ」
「え?」

ふっくらとした丸い顔。白い肌に、ほんのり赤く染まった頬。
紫色の髪は左右にくるんと丸く巻かれており、翡翠色の瞳が真っ直ぐこちらを捉えていて。

「か…可愛いっ!」

はキラキラと目を輝かせカゴに飛びついた。

「すごーい!妖精??初めて見た!可愛いー!」

きゃあきゃあとピンク色のオーラを発するに周りは若干引き気味である。

「…、今は妖精の可愛さを満喫してる場合じゃないから…」
「は!そうだったわ!ここから出るんだったわね…」

が急いで檻の鍵を外そうとした時だった。


ちょっと…待ちなさいよおん…


「?!」
「みんな、後ろっ!」

背筋の凍るような不気味な声が響いた。
レナの声と同時に後ろを振り返ると、先ほどまでのびていたモンスターが起き上がりこちらを見下ろしていて。

「やば…起きちゃったのね」
「まあ、あれだけ時間食っていたらね…」

慌てるに冷静に突っ込むセルジュ。

「ふふ…ニンゲンの子供とは久々のご馳走だわ…その妖精共々美味しく食べてあげるわん」
「な?!」

ぺろりと長い舌を出したモンスター、オクトガルの言葉にが反応した。

「アンタこんな可愛い子を食べる気だったの?!」
?」
「駄目!絶対!可愛いは正義なのよ!」
「おーい?」

セルジュの呼びかけも聞こえない。
モンスターやら何やら、現代で生活して来たにとって、訳のわからない奇妙な生物が沢山いるこの世界では可愛いものの存在は大変貴重なのである。

その可愛い存在を食べるなんて言語道断!

「ついでに言うと、私怒ってるの。変な黄色い生き物に騙されるわ虫に襲われるわ…と言う事で、悪は断つ!」

はどこぞの正義のヒーローのような台詞を吐き、オクトガルに向かって意気揚々と突っ込んで行った。



そうして数分後。


「正義は勝ーつ!」

ふははは、と腰に手を当てて高笑いするがあった。
倒れたオクトガルの体に足をかけるその姿は悪役そのものであったが、今はそれに突っ込む者はいない。

って、好きなものが絡むと一気に強くなるんだね」
「何か本来のものとは違う力が湧いてるんじゃないかしら…」

まあこっちは体力温存出来て助かったからいいけど、と笑いながら話すセルジュとレナを尻目に、は妖精の元へ向かった。
そのまま檻の鍵を開け(外側から簡単に外せる簡易なものだった)妖精に手を差し伸べる。

「こんにちは妖精さん。大丈夫?」
「う、うん。ありがと」

ふわふわと浮かびながら出て来た妖精は、不思議そうにを見上げた。

「お姉さん強いんだね。ボクびっくりしちゃった」
「あはは…まあ、火事場の馬鹿力って所かな…」
「そっちのお兄さんとお姉さんもありがとー。来てくれなかったら今頃やばやばだったよ」

にこ、と笑う妖精は大変可愛らしい。
しかし何故こんな所にいたのか?

「あなたはどうしてこんな所に?」

レナの問いかけに妖精は憤慨した様な表情になった。

「ひどいんだよ!ちょっと迷子になっちゃって、ここでどうしようか悩んでたらあのハナデカ達に捕まっちゃって…」
「ハナデカ…ドワッフの事かしら」
「ドワッフ?」

クエスチョンマークを浮かべるにレナが答える。

「背の低い亜人の一種よ。ここに住んでいるって村の人に聞いた事があるの」
「ふうん」
「大変だったね。よかったら僕達と一緒に来ない?」

セルジュの誘いに妖精は目を瞬かせ。

「いいの?」
「もちろん」
「ありがと!ボクはラズリー。よろしくネ!」

こうしてラズリーが仲間になった。
的には「セルジュグッジョブ!!」である。

親指をグッと突き出して苦笑されたのは…言うまでもない。

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