15


レナの代わりにラズリーがパーティに入り、一同は森の奥へと進んだ。

はラズリーの言う「ハナデカ」がどんなものなのか気になっていたが、その疑問はすぐ解決される事になる。
森の最奥まで来た所、見た通りハナデカな生物がぞろぞろ出て来たからだ。

「これがドワッフ?」

が呟くと、ラズリーが眉を吊り上げた。

「そう!こいつらがボクを閉じ込めたんだよ!」
「気をつけて。彼らは人間を嫌っているらしい」

セルジュの言う通り、彼らは達を鋭い眼差しで睨みつけていた。
中の一人が前に出て来て、表情と同じ固い声でこちらに話かける。

「人間よ、何用でこの森に来た?」
「…退いてくれないか。僕たちはヒドラに用があるんだ」

セルジュがそう言った瞬間、ドワッフ達が激昂した。

「ヒドラはこの森の守り神。その存在が失われればこの森は死んでしまう…」
「それでも先へ進むというなら容赦はせんぞい、人間共め!」
「…!僕たちにも、進む理由があるっ!」

この森が死ぬ。
彼らの言う事は理解出来る。
私欲で一つの命を奪うなど、許される行為ではない。
だが、それでも――



脳内にキッドの声が蘇る。

――もってあと二日か…。

絶望したドクの声。
あと二日。エルニドには存在しない。助ける方法がない。
キッドが、死ぬ?
そんなの、私には耐えられない。

「……」

は目を閉じると、深く息を吸った。

…大丈夫。
絶対助けると決めた筈だ。

「…いくよ!」

は覚悟を決めると、杖を振り上げた。
一列に並んだドワッフ達の面前でファイアボールを爆発させる。
ドワッフ達が炎に怯み、煙に目を眩ませている隙をつき、セルジュが自らの武器であるスワローで切り掛かる。
一人敵陣に突っ込む事となったセルジュに、炎から立ち直ったドワッフ達が一斉に襲いかかるも、その攻撃は当たる事はなかった。

「セー様だけ危ない目に合わせる訳ないじゃん!」

セルジュ一人に集中した結果、ラズリーの杖から繰り出される全体攻撃によって動きを止められたからだ。
身動きの取れなくなった彼らに、のエレメントが再び発動した。

「く…っ、つ、強い…!」

達の攻撃で次々と倒れて行くドワッフ達。

「ぐう…我々では敵わないというのか…」
「こ、こうなったら仕方あるまい…」

恨み言を言いながら気を失っていく中、その内の一人が立ち上がり、ふらふらとした足取りで沼の更に奥に走っていった。
その様子を見て、ヒドラはこの奥にいる。そう確信を持った一同がドワッフの後を追いかけようとした時、倒れているドワッフの呻きが響いた。

「き…貴様らは、森を…殺すのか…」

ラズリーが悲しげに俯いた。
はドワッフの問いかけに答える事は…出来なかった。
セルジュも一瞬顔を曇らせたが、すぐに「行こう」と言い、達は振り返る事なくドワッフの後を追った。

「この森を汚す人間共めっ!自然の怒りをその身に受けるがいい!」

沼の開けた場所に着くと、そこには先ほどのドワッフが待ち受けていた。
歩く事も難しい傷を負った筈のドワッフは、怒りに満ちたオーラを全身から発し、達の姿を認めると森に響くような大声で叫んだ。

「我が声に応えよ、ヒドラ。この愚かなる人間共に、緑の…いや、星の痛みを思い知らせてやれ!!」

まるで魂の叫びにも聞こえたその言葉は、達の心を抉った。
だが、それを気にしている余裕はない。
セルジュがとラズリーを一歩後ろに下がらせる。

「二人共…来るよ!」

ドワッフの叫びに呼応するかの様に、沼の底から大きな地響きと共にヒドラが現れた。
巨大な紫色の体に、体を覆う固そうな鱗。突き出た触角。
何本も伸びた手脚は、こちらを威嚇するように激しく動いている。

「これがヒドラ…」

絶滅しかけているという、森の守り神。
ヒドラを殺せば森が死ぬ。だが、キッドを助けるにはヒドラを殺さなければならない。
ヒドラを殺す事は、達の罪になるだろう。

「…ヒドラの先天属性は黄みたいだ。、エレメントの準備を」
「うん…」

セルジュに言われ、ヒドラにエレメントを放つ瞬間。

ふ、と。
はヒドラに見つめられているような気がした。

「…」

その眼を真っ直ぐ見つめ返し、は呟く。

「……私達は、罪を背負うわ」

怒りに満ちたその眼の奥に、微かな哀しみの色が見えた気がした。

「…ごめんなさい」

零した謝罪は、誰に向けてのものだったのだろうか。

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