18
「…成る程、事情は解った」
あれから。
グレンとアイコンタクトを交わすを見て何を思ったのか、再びグレンに殴り掛かろうとしたセルジュを必死で止め、説明していなかった彼との関係性を説明するとセルジュはようやく落ち着いてくれた。
「そう?それなら良かった…」
「で・も!」
肩をなで下ろしたに向かってビシッ!と指を差すセルジュ。
「いくらなんでも、異性に抱きつくのは駄目!」
「……そうかしら?」
「駄目なものは駄目なんだ!解った?!」
「う、うん。解った」
には何故セルジュがここまで言うのか解らなかったが、セルジュの瞳があまりにも真剣だったので一先ず頷いておく事にした。
「そうそう。解ったならいいよ」
満足そうに頷いたセルジュを見て、グレンがようやく口を開いた。
「…それで、達はこれからどうするんだ?」
「凍てついた炎を探すの」
ははっきりと答えた。
「私のそもそもの目的が、凍てついた炎なの…。だから、何か知ってそうなヤマネコ達の後を追うのが順等かな…」
「そうか、も炎を追って…」
「ごめんね…ヤマネコは蛇骨大差の客人なのに、こんな事言って」
「いや…」
何かを考え込む様に、顎に手を乗せるグレン。
そして一人頷くと、真剣な表情でこちらを見た。
「、俺も一緒に連れて行ってくれないか」
一瞬、何を言われたのか解らなかった。
グレンの言葉を頭の中で反芻させ、暫くして驚きに声を上げる。
「えっ…えええええ?!どうしたのグレン、そんな事言うなんて…!」
「俺は…知りたいんだ。今、本当は何が起こっているのか」
真っ直ぐな瞳に気押しされる。
「駄目か?」
「だ、駄目じゃないよ、嬉しいよ。…でも、本当に良いの?」
あなたはアカシア竜騎士団の一員でしょう、と言えばグレンはフッと笑って。
「大した事じゃないさ。流されるままより、自分の思うままに生きたいんだ」
「グレン…」
「それに」
「?」
グレンは眉を顰めた。
「誰にも言ってなかったんだが」と一言置いてから、戸惑った様に口を開く。
「こんな事言っては何だが、ヤマネコはどうも怪しい。客人として来てから、館には変な事ばかり起こった…嫌な予感がする」
それにはも同感である。
「何言ってるのよ。身に纏うオーラからして怪しさ満点じゃない。…じゃあ、一緒に来てくれるのね!」
パン、と手を合わせると、はセルジュに向き合った。
「セルジュ、何となく知り合いっぽいけど紹介するね。こっちはさっきも言った通りアカシア竜騎士団のグレン」
「う、うん」
「そんな訳で、仲間になっても良いよね?」
「――もちろん」
一瞬だけ間が有ったのには気付かない。
嬉しそうに顔を綻ばせると、体を反転させ今度はグレンに向き合う。
「グレン、こっちは色々あって一緒に旅をしているセルジュ」
「ああ。…よろしく、セルジュ」
「こちらこそ」
グレンが差し出した手をセルジュは迷いなく握った。
「(何だか、凄く嬉しい)」
その様子をニコニコしながら見ていただったが――ややあってから「あ!」と短く叫んだ。
グレンとセルジュが振り返ってを見ると、はだらだらと汗を流しながら固まっていて。
その様子にセルジュが慌ててに近寄る。
「どうしたの」
「ど、どうしよう二人とも…」
「??」
「早く…早くキッドの所に戻らないと…!!」
「あ」
セルジュはすっかり放置してしまったキッドの存在を思い出した。
迎えに来ておいて何をしているんだ。激昂するキッドを想像して、セルジュは苦笑いを浮かべた。
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「おせーぞお前ら、何やってたんだ」
蛇骨饅頭を買い、大急ぎでキッドの所に戻れば、キッドは花屋の隅に並べられている木箱に座り込んでいた。
バタバタと走って来た達に気付くと、不機嫌そうな顔を隠さず、こちらを見上げた。
セルジュが一番に口を開く。
「ごめんキッド、色々あって」
「色々?ミイラ取りがミイラになってんじゃねーよ」
と、の隣に立つグレンの存在に気付いたのか、訝しげな表情をした。
「誰だそいつ」
「あのねあのね」
不機嫌オーラを放つキッドを恐れもせず、がニコニコとキッドに近づく。
「アカシア竜騎士団の兵士で、私の友達。仲間になってくれたのよ」
「グレンだ、よろしく」
「アカシア竜騎士団…」
キッドが呟き、木箱から立ち上がるとグレンに近寄った。
「じゃあお前、大佐とヤマネコの動きを知っているな?」
「ちょ、キッド…」
「ああ」
ギョッとするとは正反対に、グレンは落ち着いて答える。
「大佐達は南東の死火山に聳える古龍の砦に向かったらしい」
「ほお」
「パレポリも凍てついた炎の事を聞きつけたらしくてな…暫く館を引き払って拠点を古龍の砦に移すんだ」
グレンの言葉を聞き、キッドがニヤリと笑った。
「アイツら、オレがへばってる間にトンズラしたみてぇだな」
「古龍の砦…龍族の遺跡だっけ」
はエルニドに来て日が浅いが、館にいた時に噂で聞いた事がある。が何気なしに呟けば、キッドが肩を竦めて続けた。
「怪しげな儀式とかやってたらしいぜ…その儀式には龍の涙が必要だったらしいんだが」
「龍の涙…」
後半の言葉はセルジュに向けて言ったものらしい。
何か覚えがあるのだろうか。龍の涙と聞いて、セルジュがポツリと呟いた。
「大佐の部屋にあったあのお宝だな。さて、あいつら何をおっぱじめるつもりだ?」
「それは解らないけど…とにかく、古龍の砦に向かいましょうか」
「ああ」
の言葉にキッドが頷く。こうして、一同は古龍の砦に向かう事となった。