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が朝食のメニューを考えている内に、セルジュ達はようやく最初の甲板に戻ってきた。
船内よりいっそう不穏な空気に包まれ、誰もがパイレッタ、あるいはライフレス達と戦闘中であった。
セルジュは甲板の奥に目を凝らした。舵輪を握りながら、船員に檄を飛ばすファルガの姿が見える。

「ぬお!!」

ファルがの一瞬の隙をついて、ライフレス三体がファルガに襲いかかった。

「せんちょーー!!」

響く船員の悲鳴には意識を戻した。
ああ、ここは本気で意識を逸らしている場合ではない。半泣きになりながら、駆け出すセルジュ達の後を追う。
一体のライフレスが近付くセルジュに気付き、戦闘が始まる――と思われた瞬間。

「このファルガ様を…なめるんじゃねえぞコラー!!」

襲いかかるライフレスの、攻撃の一瞬の隙をついて一撃、起き上がった勢いでまた一撃、振り返りながら一撃。
まさに一撃必殺。ライフレス三体を一気に倒してしまった。

「す、すごい」

感嘆したセルジュだったが、ファルガの腕からは、かなりの量の血が流れていた。先ほどの勢いはなく、セルジュが到着すると同時に方膝を着いてしまった。

「くっ…」
「大丈夫ですか?」
「動かないで!すぐ回復を…」

追い付いたがケアをかけ始めるのを横目に見ながら、ファルガがセルジュを見上げる。

「おい、セルジュとか言ったな。お前が蛇輪を握れ!」
「え?僕が?」

予想もしなかった言葉に、セルジュは思わずすっとんきょうな声を出してしまった。

「いつまでもここにいたらアイツらの餌食だ。急げ!」
「…わかった、任せろ船長!」
「よし、よく言った!」

舵に向かって走るセルジュの背を見送りながらは祈る。

「(セルジュお願い!早くここから…!)」

しかし、蛇輪を握ったセルジュの前に新しいモンスターが現れ、その道を塞ぐ。
五、六体のモウジャダマが重なり合い、一つの姿――ダイモウジャと化し、セルジュに襲いかかった。

「!」

咄嗟に飛び退いて攻撃を避けると、セルジュがいた場所に大きな穴が空いた。その威力に確信する。

「こいつが親玉みたいだ…さっさと倒さないと」

はファルガの回復に専念しているが、それでも三対一の戦い。死臭や闇ブレスに苦戦しながらも確実にダメージを与えていく。
幾度かの攻防の後、セルジュがエレメント「フォトン」を打ち込むと、ダイモウジャは亡者の怨念と共に、空に消えて行った。
それと同時に段々霧が晴れていき、射し込む光。

「あ…太陽」

なんだか随分久しぶりに見た気がする。
その眩しさに、は目を細めた。同時に、もう大丈夫だと確信する。先程までの重い空気はなく、亡者達の姿も全て消えていたのだ。
安心して「ふー」と息を吐くと、下から声がかかった。

「嬢ちゃん、手を止めな」
「あ、はい!大丈夫ですか?」

回復の手を止め、ファルガの全身に目を配る。どうやらすっかり傷も癒えたらしい。
ホッとしたにニヤッと笑いかけると、ファルガは立ち上がって一言「助かったぜ」と、の頭を軽く叩いてセルジュ達の方へ歩いて行った。

「あ、頭ポン…」

おそらくの世界ではなかなか接点のない、ダンディなちょい悪おじ様の行動に、色んな意味でドキっとしただった。

「海も元に戻ったみてぇだな」

ファルガは手摺から身を乗り出して回りを確認すると、懐から葉巻を取り出し一息吐いた。そしてセルジュを見やり。

「蛇骨達を追って古龍の砦に行くんだったな。礼と言っちゃなんだが、いい事を教えてやる」
「いい事?」
「死火山を登る前に水龍の加護を受けな」

突然の情報に目を丸くしているセルジュを尻目に、ファルガは続ける。

「あそこは熱地獄だ。水龍に加護もなしにいけば、たちどころに体力を奪われちまう」
「…そうなんですね」

閉じ込めてしまった詫びと、助けた事の礼なのだろう。
色々あったが、情報が掴めたので良しとしよう。次の行動を思案していると、ファルガがとんでもない事を言い出した。

「しかし最近とんと話を聞かねえからなぁ。まだ生き残ってるかどうかわからねえな」
「おいおい、頼むぜ…」

不確定な情報に、キッドは苦笑いを浮かべた。

その後、無事海賊船を後にし、ボートに乗り込みながら今後について話し合う。はファルガの言葉を思い返しながら口を開いた。

「どうする?船長の言う通り、水龍の加護を受けに行く?」

の言葉を受け、キッドが微妙な表情をした。

「でもよお、生きてるかわかんねえんだろ?」
「…確かに、騎士団の調査でもあそこは水源どころかすっかり渇れ果てていると報告があった場所だ」

あまり賛成ではない様子のグレンとキッドの言葉を受けたセルジュが、ボートを漕ぎながら首だけで振り返った。

「僕の世界では、水龍の話をよく聞くよ。そっちに行ってみようか」

僕の世界?と首を傾げるグレン。セルジュに説明を任せると、は天を仰いだ。

「水龍かあ…どんな感じなんだろう」

海賊だ幽霊だ、なんだかんだ酷い目に逢ったが、次の目的はまだ明るい。
騎士団の龍とは違うのだろう。はまだ見ぬ存在に心を踊らせた。

しかし、この時点で既に悲劇が起きていた事を、達はまだ知らなかった。

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