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死火山と言う名前から、はてっきり死んだ火山=今は火山ではない等と思っていだが、それはとんだ間違いだった。

「マグマ、初めて見たわ…」

なるほど、ファルガ船長が言っていた通り『熱地獄』である。棲み付いたモンスターも赤属性、火のエレメントを使うものばかりであった。
水龍から授かった「氷の息吹」を使い、マグマを凍らせながら奥へと進む。加護があるとは言え、服の下はじんわり汗をかいていった。
前を歩くグレンの後ろ姿を見て、は呟いた。

「グレンの甲冑で焼肉が出来るかな…」
「?」

振り返ったグレンの背中にぶつかり、は悲鳴を上げた。

「熱い!」
「あ、すまない!暑さでおかしくなったのかと思ったんだ」
「そこまでじゃないわよ。ああ、やっぱり熱せられてたわ…」

真夏の車のボンネットみたい。纏っている本人は熱くないのかなと思ったが、グレンの様子を見る限り平気らしい。

「どこを鍛えたらそうなるの…」
「なんの話だ?ほら、置いてかれるぞ」
「うん…」

途中何度もドギィとガオンジャに追いかけられたり、アカニィに火傷ブレスを吹きかけられたり、喋る小さい龍に戦いを挑まれたりしながら黙々と進んで行った。若いとは言え、ほぼ一般人のにはなかなか辛い行程だった。

「はあ、はあ…坂が辛い」
「頑張って、もう少しだよ」

肩越しに励ましてくれるセルジュに、弱々しく親指を突き出して答える。

「暑いし坂だし追いかけられるし、これ何の苦行−−「てめぇら!そこまでだ!!」

聞き覚えのある声が聞こえた瞬間、はほぼ反射的に、息を切らしていたとは思えない動きで岩影に隠れた。

「…まあ、そう来るよね…」

恐る恐る覗けば、やはり姿を現したのはカーシュ、そしてマルチェラ、ゾアのアカシア龍騎士団四天王の三人であった。

「カーシュ!?」
「あ?グレンじゃねぇか!?なんで、コイツらと一緒にいんだ!?え?!」

幸いには気付かなかったらしい。

「すまないカーシュ。そこをどいてくれ。おれは確かめたいんだ。なにがおこっているのか、この目で。たとえ、それで、騎士団を追放されようとも……」
「はっ!それが、オマエの騎士道か?!だがな……。これ以上は、アカシア龍騎士団の名にかけて、行かせねぇ!!」
「ここで終わりにしてやる」
「グレンなんて関係ない!セルジュ!!あたしは、おまえがキライ!だから、おまえの仲間もキライ!おまえの父さん母さんも、ジイさまもバアさまも、そのまたジイさまバアさまも……ぜーーーんぶキライ!!キライ!キライ!!大ッキライ!!!」

「マ、マルチェラ…」

あまりの嫌われっぷりに思わず笑ってしまった。
それはカーシュも同じだったらしい。愉快そうに声を上げた。

「ハハハッ!嫌われたもんだなオイ。じゃあ、そろそろ……てめぇらは死ね!!」

一転、セルジュはカーシュ、グレンにはゾア、そしてキッドはマルチェラと。それぞれ戦闘が始まった。
はその様子を見ながら岩陰をうろうろする。

「どうしよう。とりあえずやばそうになったらエレメントぶっ飛ばそうかな」

なんとも姑息がだ仕方ない。
はらはらしながら様子見していたが、暫くして一際大きな金属音が響いた。目に飛び込んだのは、カーシュの馬鹿力によって、セルジュのスワローが弾かれたシーンだった。
重い音を立てて落ちるスワロー。カーシュがにやりと笑って腕を振り上げる。キッドも、グレンもセルジュのフォローにまわる余裕はない。

「あ…っ!」

鈍く光るアクス。ぎくりと、体が固まった。

『てめぇらは死ね!!』

そんな事する人ではないと、思ってはいるけれど。

は岩影から飛び出した。

「カーシュ!」
「!?!」

の姿を見たカーシュの動きが一瞬止まる。

「ごめんね!」

せめてさほどダメージの少ないものを、ここが火山である事を考慮して青のエレメントを放った。

「…!!」

威力は低いが、セルジュとの戦闘で消耗した彼には十分だったらしい。数メートル後ろに飛ばされ、同時にアクスが落ちたのでそれに向かって再びエレメントを放った。

「ふ、ふざけるな……。俺様が、負けるわけねぇだろ!?」
「ひえぇ」

武器を遠くに飛ばされ、抵抗できなくなったカーシュが怒りで目をギラギラさせながらセルジュを睨む(その形相に、は罪悪感云々抜きに純粋に怯えていたが、それがに向けられる事はなかった)

素手でも向かってきそうな勢いだったが、それをゾアが窘める。

「カーシュ、そろそろ時間だ」
「クッ!このカリはいつか返すからな!!!お前も今度たっぷり話聞かせてもらうからな!!」

名前を呼ばれて縮み上がっただったが、カーシュは特に責めるでもなく、一言だけ言うとゾアに続いて去っていった。マルチェラも「い〜〜〜〜だ!」と、何とも子供っぽく(実際子供なのだが)威嚇すると、素早く走り去った。

三人の姿が消えた後、はスワローを拾ってセルジュに近付いた。

「ごめん、思わず隠れちゃって」
「いいよ。気にしないで…助けてくれてありがとう」
「………あのねセルジュ、私が言うのも変だけど…カーシュって口の悪い単純おばかさんなだけで、悪い人じゃないの…だから、悪く思わないで欲しいな、なんて…」
…」

の中のカーシュは、真っ直ぐで、それでいて不器用で優しい人だったから。
セルジュの事情を知ればきっと解ってくれると、そう、願いたかった。

「(それは、私も同じ様に思って欲しいから、なのかな…)」

セルジュは少し困ったように、でも、笑って頷いてくれた。

「セルジュ……」
「…ツクヨミ?」

死火山を出ようとした時、聞き憶えのある声と共にツクヨミが上方からふわりと落ちて来た。
片足で着地すると、真っ直ぐにセルジュとを見つめる。

「どうしてここへ」

その理由は何となく解っていた。

「二人共、この先へ進んだら、きっともう引き返せないよ、それでも……行くの?」
「…それでも行くよ」

やはり彼女は止めに来たのだ。
ツクヨミは隠者の小屋でも同じ事を言った。これ以上進んでも辛いだけだと、引き返しなよと。
ツクヨミがここまで止めるのかやはり解らなかった。途轍もない理由があるのかも知れない。だが進まなければ何も解決しないのだ。
セルジュの答えに、も黙って頷いた。

「そう……。とめないよ、あたい。でも……死なないで……」

そう言ったツクヨミはひどく悲しげな目をしていた。
ツクヨミは宙を一回転すると、膝を抱えて消えていった。

「…何なんだろうね…」
「わからない…でも、もう行くしかない」

セルジュの後に続き外へ出ると、六体の龍の像に囲まれた巨大な砦が眼前に現れた。

「これが古龍の砦…」

やっと、辿り着いた。
この一年間、ずっと探してきた手掛かりに、漸く手が届く。

−−帰れるのだろうか。

砦の天辺に浮かぶ塔を眺めながら思う。何だか実感が湧かない。

「でかいな」

ぼんやりしていたら、キッドが肩を組んで来た。 死火山でへろへろになったとは反対にキッドは元気いっぱいで、楽しそうに笑っている。

「何で笑ってるの?見てよあの大きさ。大変そうよ」
「何でだって?やっと、ケリが付くんだ。張り切っていこうぜ!」
「…うん、そうね。頑張るわ」

バン、との背を叩いてからキッドは歩き出した。

「お前もやっと帰れるな。そう思うとちょっと名残惜しいけどな…」

キッドの言葉にハッとした。

「(そっか、帰れるとしたら、キッドとはお別れなんだ…)」

キッドだけじゃなく、今まで出会った人たちとも、二度と会う事はないだろう。

「(何だか実感が湧かないな…)」

嬉しいのと、少し寂しいのと。複雑な気持ちを抱えながら、はキッドを追った。


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