宇宙の片隅で星が死んだ日


 ザザ…ン…ザザン…。

 波の音が聞こえる。静かに、柔らかく。
 微睡んでいる感覚、その心地よさに身を委ねる。

 ──何か、辛い事があったような気がする。

 脳内に残る凍えるような感情、それを優しい音が癒していく。
 意識は徐々に覚醒してきた。でも、もうこの少し優しさに包まれていたい…。
 だけれど、そんな思いとは裏腹に突如世界は開かれた。

「これは、驚いた」

 対して驚いてもなさそうな、抑揚のない声に目を開ける。そのまま波の音に惹かれるように上体を起こした。
 砂浜だった。青い、美しい海が見える。
 波音を背に青年が一人、こちらを見下ろしていた。

「お嬢さん、君の名前は?」

 青年の能面のような無表情が、少し遅れて思い出したように唇の端を釣り上げた。
 声の出し方を思い出すのに時間が掛かった。頭のピースがうまく噛み合わない。

「…私?私は………誰?」

 ようやく出た声も本当に自分のものなのか、わからなかった。

「…あなたは、誰?」

 興味深げにこちらを見つめる青年を見返す。

「フェイト」

 表情のない声が、少しだけ、笑ったように見えた。


inserted by FC2 system