6


の蛇骨館での一日は単純だ。
起床し、部屋に運ばれてくる朝食を食べると館内の散歩をする。昼食は一人ではつまらないので食堂で取り、そこでグレンやカーシュに会うので会話をする。
さりげなく凍てついた炎の情報がないか色んな人の会話に耳を傾けるが、どうやら皆の知るところではなさそうだ。
少し落ち着いたところで、午後のお茶をリデルと共にする。夕食も食堂で賑やかに過ごし、眠気が訪れたら眠る。
勿論毎日同じではない。リデルに用事があれば も別の事をするし、グレンがテルミナに行くのであればそれについていったりする。

今日はどうかと言うと──

「ねえ、 姉ちゃんの住んでた所ってどんな所?」

リデルとのお茶会に、マルチェラも参加していた。
初めて会った日は逃げられてしまい、その後何日か顔を合わせるもほぼ無視をされてしまっていたが、根気よく話しかけていく内にようやく会話をしてくれるようになった。

「そうねえ…都会だったかなあ。建物ばっかり」
「ふーん。いいなあ。ここなーんもないんだもん」

彼女も年頃の女の子らしく、都会に憧れるのだろうか。

「そう?エルニドっていい所だと思う。こんな自然なかなかお目に掛かれないよ」

事情がなかったら本格的に観光でもしたい所である。

「でも、 姉ちゃんだっていつかそこに帰るんでしょう?エルニドに住みたいなんて思わないよね?」
「え、」

純粋な疑問に答えが返せなかった。

いつか。
そう、いつかは。

「(…帰れる、かなあ)」

あまり考えたくないが、もし帰れなかったらこのままエルニドに住む…という選択肢も出てくるのだろうか。

「マルチェラ、あまり困らせてはだめよ」

固まってしまった にリデルが助け舟を出してくれた。

「あ、いいのリデル。あのねマルチェラ、私探し物をしてるの。それを探すまでは帰れなくてね…でももし見つからなかったら、ここに住んでもいいかなって思うくらい素敵な所だよ」
「……そう」

マルチェラはちょっとまずい事を聞いてしまったと思ったのか、罰が悪そうに顔を背けてしまった。

「まあまあ、それより今度どこか皆で行こうよ。私ここにはあまり詳しくないから、有名な場所でも穴場でも、どこか紹介してくれたら嬉しいな!」
「ふふ、そうね。蛇骨祭が落ち着いたらどこかに行きましょうね」
「…うん!」

笑顔を見せてくれたマルチェラに、 も笑みを返した。

++++++++++

マルチェラと他愛もない話をする、その横顔をじっと見つめる。
彼女が来て何日経つだろう。
それほど日が経ってないのに昔からの知人の様に感じるのは、彼女の人柄なのだろうか。

彼女は、私と彼──ダリオの事を詳しくは知らない。

事情を知らないからこそ自然に、気を使わずに話してくれる。それが、ひどく心地いい。
ダリオがいなくなってから館の皆はどこかよそよそしく、私を腫れ物を扱うかのような態度で。
私もまだ立ち直れてないから仕方ないけれど、その優しさが辛かった。

だから、彼女が来てくれて本当に嬉しい。
私を特別扱いしない、普通の友人。

…友人と、思っていいのかしら。

『探し物をしてるの』

彼女はたまに、ここではない、どこか遠くを見る。
そしてその後には、決まって深い憂いの色がその顔に表れるのだ。

理由を聞く事は出来なかった。聞いても今は答えてくれないと、その表情から解った。

…いつか、聞ける日が来たら。
私も、彼の話を彼女にしたい。

決して悲しい話ではなく、愛おしい思い出を、笑いながら──

リデルは小さく微笑んだ。
それが近い未来になるように、願いを込めて。
inserted by FC2 system